大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 昭和28年(ワ)321号 判決

原告 佐藤治三郎

被告 黒坂コハギ

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は秋田市亀ノ丁東土手町五番地現在家屋番号同所二十番の二、木造亜鉛鋼板葺二階建店舗兼居宅壱棟建坪十二坪外二階六坪が原告の所有なることを確認せよ。訴訟費用は被告の負担とする。」、との判決を求め、その請求の原因として

秋田市亀ノ丁東土手町五番地現在家屋番号同所二十番の二、木造亜鉛鋼板葺二階建店舗兼居宅一棟建坪十二坪外二階坪六坪(以下これを二十番の二建物と略称する。)は元訴外杉山由治郎の所有であつたものを訴外細部源太郎が譲受け、ついで同訴外人より原告が昭和二十八年九月十九日譲受けその旨の移転登記を了した原告所有のもので訴外佐々木三男に賃貸していたものである。

被告は右同一宅地内に二十番の二建物と近接し家屋番号廿番木造亜鉛鋼板葺住家壱棟(以下これを二十番の建物と略称する)を所有しているものであるが、右佐々木三男が昭和二十八年十一月頃夜逃げして空家となるや、被告は直ちに同訴外人より賃借権を譲受けたと称し原告に無断で二十番の二の建物を占有使用しているのみならず該建物に対する原告の所有権を争つている。

よつて原告は被告に対し二十番の二の建物が原告所有であることの確認を求めるため本訴に及ぶと述べ、被告の本案前の主張及び答弁に対し二十番の二の建物に関し訴外杉山由治郎と被告との間に被告主張のやうな所有権確認訴訟が御庁に係属してからその主張の日時にその主張の如き第一、二審判決がなされ上告審に係属するまでの経過事実及び右第一審の判決中右杉山敗訴の部分については杉山は控訴しなかつた事実並びに原告の前主細部及び原告が二十番の二の建物を承継取得したのは共に右訴訟の控訴審の口頭弁論終結後であること以上の事実は認める。その余の原告主張事実に反する点は総て否認する、と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は本案前の主張として「本件訴はこれを却下する。」との判決を求め、その理由として本訴の訴訟物である二十番の二の建物の内二階六坪階下店舗六坪の部分は後記最高裁判所昭和二十九年(オ)第一五号建物所有権確認上告事件(一審秋田地方裁判所昭和二十五年(ワ)第二〇一号控訴審仙台高等裁判所秋田支部昭和二十八年(ネ)第一一七号)と当事者並びに訴訟物を同じくするから民事訴訟法第二三一条の二重訴訟禁止の規定により不適法として却下さるべきである。

即ち二十番の二の建物については既に原告の前々主たる訴外杉山由治郎が本訴被告を被告として御庁に所有権確認の訴を提起し御庁昭和二十五年(ワ)第二〇一号所有権確認事件として係属した結果昭和二十七年十月二十九日「右建物の内二階六坪と階下店舗の部分六坪は右杉山の所有なることを確認する。その余の居宅六坪の部分の請求は棄却する」旨の判決(乙第二号証の一)があり、右判決に対し訴外杉山は右敗訴となつた居宅の部分について控訴しなかつたため該部分は控訴提起期間経過により杉山の所有でないことに確定した。又右判決に対し被告は敗訴した部分について控訴し仙台高等裁判所秋田支部昭和二十八年(ネ)第一一七号事件として係属し、審理の結果同庁において昭和二十八年十二月十日原判決中被告(前訴の被告、控訴人)敗訴の部分を取消す右杉山(前訴の原告、被控訴人)の請求を棄却する旨の判決(乙第二号証の二)が言渡され該判決に対し現に訴外杉山に於て上告中である。ところで右控訴判決は昭和二十八年八月二十四日終結した口頭弁論に基いてなされたものであるが、二十番の二の建物を右杉山から原告前主細部源太郎が譲受けたのはその後の同年九月十一日であり、右細部から原告が譲受けたのは同月十九日である。されば右上告中の訴訟の判決が確定すれば原告は該訴訟の判決の既判力を該訴訟の当事者たる訴外杉山と共に受ける点に於いて謂はば該訴訟の当事者と同一視すべき地位にあるものと言うべく、かゝる地位にある原告は右上告中の訴訟に当事者として参加し訴外杉山の訴訟上の地位を承継するは格別新に右と同一の訴訟物たる本件建物の所有権確認の訴を前訴の被告と同一人である被告に対し提起することは民事訴訟法第二三一条の二重訴訟禁止の規定の精神からして許されないものと言はなければならない。さすれば二十番の二の建物中前記確定判決ある居宅の部分を除いた部分は不適法として却下さるべきであると述べ、

本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告請求原因事実中原告主張の二十番の二の建物が独立した建物として登記簿に登載せられあること、該建物がその主張の如き経過で転々し原告に承継され且つその旨の移転登記手続が経由されあること、該建物をその主張の日時ごろ被告が占有使用するに至つたこと及び被告が該建物と同一宅地上に二十番の建物一棟(但し住家のみではないこと後記のとおりである。)を所有していること、以上の事実は認める。その余の事実は次のように争う。

本件二十番の二の建物は被告所有の二十番の建物の一部をなすもので被告所有のものである。右二十番の建物は木造亜鉛鋼板葺二階建店舗兼住家であつて、その建坪は元二十一坪一合四勺外二階坪六坪五合であつた。被告は右の内店舗の部分約六坪とこれに接続した居宅の一室を併せ合計十二坪を訴外古井栄治に昭和二十四年五月三十日までの期限で賃貸したところ訴外村元信義は昭和二十三年八月中被告の承諾を得て右古井より転借した。ところが右村元は右期限満了に際し賃貸期限の延長並びに右店舗の模様替方の許諾を求めて来たので、被告は同訴外人が被告に明渡す際は模様替をした部分はすべて無償で被告に引渡すことを条件としてこれを承諾した。そこで訴外村元は右約旨に基いて店舗の部分(約六坪)が平家建であつたのを改造して二階建(二階六坪)となしたのである。ところが右村元はその後借財の為か昭和二十五年二月中旬頃被告不知の間に逃亡して行衛を昏まし、数日後東京から書面を以て借財整理等は友人である前示杉山由治郎に依頼したから宜敷頼む旨申越し右杉山は村元の依頼により、村元の遺した商品を整理する為なりとして、その店員と称する訴外佐々木三男を右村元の後に居住せしめた。当時世評により被告は村元の行動に不審をいだき調査したところ、村元は逃亡直前の昭和二十五年二月十六日村元が使用していた右店舗の階上階下及居宅の部分を独立の家屋なりとして前示二十番の二の家屋として自己所有名義に保存登記手続をしたこと、右家屋に対し訴外杉山が同月十八日売買による所有権移転請求権保全の為の仮登記手続を経由しおることが判明した。よつて被告は直ちに同月二十二日訴外村元に対し右保存登記の抹消請求訴訟を提起し御庁昭和二十五年(ワ)第六十五号事件として係属し審理の結果昭和二十六年十一月二十七日被告勝訴の判決(乙第一号証の一)があり右判決は昭和二十七年一月二十七日確定した。けれども右訴訟の係属直後で口頭弁論終結前である昭和二十五年四月二十一日村元の承継人たる訴外杉山へ所有権移転登記手続がなされたため右確定判決を以てしてはその執行力が訴外杉山に及ばないため右の移転登記の抹消を為し得ないで居る間に右建物は転々し前示の如く原告に譲渡されたものである。

以上のように右建物中訴外村元に於いて何等手を加えなかつた居宅一室の部分は当初より原告所有の建物の一室であるし、爾余の改築部分も訴外村元被告間の前記特約により無償で原告所有に帰したものと言うべく、然らずとするも該部分は主物である被告所有建物に附合し被告の所有に帰したものであつて、被告所有の前示二十番の建物と独立した別個の所有権の客体たり得ないものであるからいづれの部分も訴外村元に於いて所有権を取得する理由はない。従つて無権利者たる訴外村元より転々承継した原告も又本件建物の所有権を取得すべき謂はれはなく原告の本訴請求は失当である。

のみならず、右二十番の二建物中居宅一室の部分は前記訴外杉山被告間の訴訟の第一審で訴外杉山の所有に非ざることが確定していることはさきにのべたとおりであるからこの部分についてはその後の承継人たる原告は該確定判決の既判力を受けそれと異る主張は出来ないし裁判所も右確定判決の判断と牴触する如き判断は出来ないから右部分に関する限りこの点だけで当然原告の請求は棄却さるべきである。

又増改築部分についても右杉山被告間の訴訟の控訴審に於て右杉山の請求を棄却する旨の判決があり、該部分も杉山の所有に非ずと判断され杉山に於て上告中であること及び原告は右控訴審の口頭弁論終結後本件建物を承継取得したものであることはさきに述べたとおりである。故に右上告が棄却され控訴審の判決が確定すれば該判決の既判力は原告に及ぶわけであるから若し右判決と牴触する如き判決を本訴でなせば当然上訴又は再審により取消されるし、確定前である現在でも右控訴審の判断はそれと訴訟物及び被告を同じくする本訴に対し上級審として拘束力を有するから、いづれにしても本訴ではこれと異別の判断をなし得ないから原告の該部分の請求は失当として棄却さるべきである。

と述べた。〈立証省略〉

理由

先づ本件訴訟が民事訴訟法第二百三十一条の二重訴訟禁止の規定に違背し不適法であるかどうかの点について判断する。

前に訴外杉山由治郎が本件二十番の二の建物につき自己所有なりと主張して被告を相手取り、当庁に所有権確認の訴を提起し当庁昭和二十五年(ワ)第二〇一号事件として係属し、右訴外人において被告主張の如き一部勝訴の判決を得、該判決に対しては右訴外人は控訴せず被告より仙台高等裁判所秋田支部に控訴し同庁昭和二十八年(ネ)第一一七号事件として係属し、同庁は昭和二十八年八月二十四日終結した口頭弁論に基いて「原判決中右訴外人勝訴部分を取消し、同訴外人の請求を棄却する。」旨の判決をし、該判決に対し同訴外人が上告し目下最高裁判所に係属中(同庁昭和二十九年(オ)第一五号事件)であること、右訴の控訴審において口頭弁論を終結した昭和二十八年八月二十四日より後である同年九月十一日訴外細部源太郎が右杉山から本件建物を譲受け、同月十九日原告が右細部から本件建物を譲受けたものであること以上の事実は原告の自ら認めるところである。

右事実によると前訴は未だ全部確定していないけれども(被告は一部確定したと主張しているけれども右事実によれば一部についても確定しないこと明かである。)前訴の判決が確定すれば原告は該判決の既判力を前訴の当事者たる訴外杉山と共に受ける関係上原告は前訴の第一審原告たる右杉山と同一視すべき地位にあるものと言ふべく、従つて本件建物の所有権確認につき被告を相手取つて提起した右杉山の前訴と本訴とは実質的に当事者竝に訴訟物を同じくするものであつて同一の訴であるというを相当とする。そうだとすると本訴は民事訴訟法第二百三十一条の二重訴訟禁止の規定に牴触する不適法な訴として却下を免れない。

よつて爾余の点に関する判断を省略し民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小嶋彌作 小友末知 松本武)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例